福岡地方裁判所小倉支部 昭和59年(ヨ)24号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
債務者は、本件予告解雇に及んだのは、債権者に度度就業規則に違反する行為があり、その態度に改善の余地がなかつたためであると主張するに対し、債権者はこれを争い、本件予告解雇は不当労働行為ないし解雇権の濫用であるから無効であると主張するので、債務者主張の順に従い就業規則違反の各所為について、以下検討する。
債務者が、昭和五八年六月一四日、無断欠勤、無断遅刻が多いとの理由で、宮坂に対し土・日曜日パートへの降格、債権者に対し譴責処分をなしたこと、同年七月八日、債権者が右譴責処分に応じなかつたことを理由として一〇日間の出勤停止処分に、一方宮坂を普通解雇したこと、債権者が、同月一一日組合分会を結成し、その分会長に就任したこと、債務者が同年七月二一日、債権者のロッカーのみを他のキャディーと分離し、同月二五日までデポット埋め作業を命じたこと、債務者は、同年八月四日勤務体系になかつた班体制を作り、債権者と中野のみが一つの班に組み入れられて他の従業員と分離されたこと、同年八月以降債権者のラウンド給が増額されず、褒賞金、特別支給金についても支給されなかつたこと、債権者主張のとおり、組合が債務者に対し、団交申入れをし、これが開催されたこと、債務者が債権者に対し、債権者主張の日、内容の譴責処分警告、注意等に及んだこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
1 無断欠勤、無断遅刻について
疎明によれば、御所カントリークラブでは、キャディーの適正な出勤確保は円満な企業運営のため不可欠であるため、事前に出番表を作成し、各キャディーにその遵守方を周知徹底していること、従つてキャディーが欠勤等をする場合は予め所定用紙にその旨を記入してスタート室に届出ること当日になつて欠勤する場合はスタート室に連絡して後日その旨の届出書を作成提出することを義務づけていたに拘らず、債権者は欠勤、遅刻に際して必ずしもこれを誠実に履行しなかつたこと及び債権者の欠勤、遅刻の日数、回数はほぼ債務者主張のとおりであり、一般的には債権者の無断欠勤等の回数は決して少ないものではなく、その服務態度は誠実とはいえないことが一応認められるが、債権者の無届欠勤等の頻度について又は無届欠勤等が債務者の円満な企業運営に及ぼした影響について他のキャディーのそれと比較検討すべき資料が乏しい本件にあつては、債権者の無断欠勤等を理由とする債務者の譴責処分及び出勤停止処分はその相当性についてなお疑問を挾む余地が存する、といわなければならない。
2 第一回警告について
疎明によれば、ゴルフ場キャディー四〇ないし五〇名のうち、債権者を含む数名のキャディーが平素から丸山支配人を「おく目」、小林副支配人を「チャボ」という渾名呼びをしていること、ただこれら渾名呼びはキャディーら従業員間においてのみ行なわれていたにすぎないこと、債権者はキャディー間で古参格にあり、その言葉遣いや所作は多分に粗雑であつて、勢い他のキャディーと協調性を欠くきらいがあつたこと、組合発行の分会ニュース二号(疎甲第九号証)に掲載された漫画や記事が職制を揶揄中傷する内容であつたことが認められる。右認定の債権者の各所為については、それ自体たわいないものであつたり、それ相当の理由があるものではあるが、あるべき労働者の服務態度からすれば決して好ましいものではなく、懲戒にまで至らない警告を受けるに価するに充分であつて、この点の債務者の主張は理由がある。
3 第二回警告について
債権者が債務者主張のころ、カートを引いて五番ホールのフェアウエイを通行したことは当事者間に争いがなく、疎明によると、債務者は五番、一三番ホールのフェアウエイの水捌が悪く、キャディーがカートを引いて通行すると芝を痛めることから梅雨期には同所を通行することを厳禁していたこと、昭和五八年の六月に入り、その趣旨をキャディー室に掲示したことが認められるところ、債務者の業務命令を殊更無視した債権者の情状は好ましからず、債権者に対し自省を促すべき債務者の警告処分が正当であることは明らかである。
4 第三回警告について
疎明によると債務者主張の日時、債権者が御所を守る会の世話人である原田幸子と右原田のキャディー室において口論をなし、同女に対し威迫的言動に及んだことが窺えるところからすれば、たとえその背景に全日自労建設一般労働組合分会と御所を守る会の対立があり、口論の動機内容にどのような影響を与えたにせよ、債権者の威迫的言動それ自体が職場規律を乱すことに変りはないのであつて、原田幸子に対する処分の有無、当否の問題とは別に債権者の非違行為に対する警告程度の処分は正当である。
5 第一回厳重注意について
疎明によれば、債務者のゴルフ場では、勤務時間は休憩時間一時間を含め九時間とされていること、勤務時間中の私用電話は就業規則により原則として禁止されていること、債務者は、組合結成後の組合の要求に対し、会社施設等を組合活動に利用させることを拒絶していたこと、本件の電話器は、利用者が硬貨を投入して使用するいわゆる公衆電話器であるが、キャディーが農家の主婦であり、自宅との連絡を必要とすることが多いことから、債務者によりキャディーのためにキャディー室専用に設置されていたところ、債権者は組合設立後、組合(特に闘争本部である宮坂宅)との連絡用に、右電話を頻繁に使用していたこと(但し、それが休憩時間中のことであるのか、勤務時間中のことであるのかは判然としない。)が認められる。
右認定の事実によれば、会社施設である電話を、会社との協定もないのに、会社の意思に反し組合のために使用する債権者の所為を相当とする根拠はありえない道理である。そして債務者においてキャディーの私用を黙認していたからといつて、直ちに組合利用の拒絶ができないとすることは、その両者の質的な相異を混同するものであり、正当な権利行使の限界を看過するものであつて許されない。しかして、債権者の電話利用の態様と債務者の禁止の姿勢とを彼此対比勘案すれば債務者の厳重注意処分は相当であるということができる。
6 譴責処分について
債務者主張の闘争ニュースの配布、ステッカーの貼付については、いずれも企業外における組合活動であるから、その内容が社会通念上許容される組合活動としての枠を越え、殊更虚偽の事実を喧伝して会社の信用を損い、又はその配布等の時期、場所、方法が相当性を欠くような特段の事情のない限り、債権者を問責することはできないものと解すべきところ、疎明によれば、組合県本部は債務者代表者らの具体的氏名を記載したステッカーを昭和五八年九月ころから債務者会社や御所カントリークラブ以外に、債務者代表者、丸山支配人等管理職の自宅周辺近隣国鉄駅付近の見やすい電柱等に多数枚貼付したことが認められ、その場所や態様を考えるといたずらに管理職個人やその家族の私的生活の平穏までをも脅かすものであることが認められ、ステッカー貼布の方法において正当な組合活動の域を逸脱した不適法なものであるといわなければならず、これを理由とする譴責処分になんら違法不当な廉はない。
7 謝罪要求等について
債務者が指摘する疎乙第三五号証中「古賀ゴルフ場では有給が自由にとれます」旨の記載は、その措辞不充分であり、御所カントリーの労働条件を悪く誤解させかねないものではあるが、前後の文章の関係と同文書の本来の趣旨が従業員に対するアンケート協力依頼であることを考えると、これが企業秩序を乱し、債務者の信用を著しく傷つけたものとは認め難い。
以上1ないし7認定の事実及び前示当事者間に争いがない事実に本件審尋の全趣旨を総合すれば、昭和五八年一二月一六日の本件予告解雇に至る債権者の各所為には就業規則五二条所定の懲戒事由に該当する事実がない訳ではなく、その情状についても特に6において悪質なものがあることを容易に窺うことができるのであるが、同時に、債務者の労務政策宜しきを得れば、企業秩序紊乱の問題に至るまでもなく解決できる些細な事柄も多いことが認められるのであつて、右は本件予告解雇の真意が、全日自労建設一般労働組合に対する過敏な嫌悪感に根ざすものであることを推知させるものである。確かに前示6にみられるように、債権者を分会長とする全日自労建設一般労働組合福岡県本部の組合活動は過激であつて不当であることを否定できないのであるが、さればといつて直ちにその組合員に対し解雇処分をもつて臨むことは経営者の労務政策のあるべき姿からして許されないのであつて、経営者としては具体的事情に応じて臨機応変に且つ原則的には順序を追つて適正な対応を講ずるべきである。
右の観点から本件予告解雇をみれば、債権者の所為には懲戒事由該当性はあるものの、これを理由として解雇することは未だ許されず、本件予告解雇は結局解雇権の濫用ないし不当労働行為として無効であるという外はない。
(鍋山健 渡邉安一 渡邉了造)